「お布施はいったい、いくらお支払いすればいいのでしょうか?」
「お気持ちで結構ですと言われても難しいなあ…」
お寺に関わる中でそんな悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか?
こんにちは!浄土真宗本願寺派の僧侶でおてライターのHIDEさんです。お寺を楽しくする情報を発信しています。
さて、今回のテーマは「お布施」について。
尋ねられることも多いテーマですが、ややこしいテーマでもあります。
今回はじっくりと考えてみたいと思います。
「お布施」がややこしい理由
ご門徒:お布施はおいくらでしょうか?
お寺:お気持ちで結構ですよ。
このように、お寺さんから言われた方は多いと思います。
お寺さんからの「お気持ちで」という回答は仏教的には明確なのですが、世間的には「もやっ」とするというのが現実でしょう。
どうしてもやっとするのかというと、「法事に対して支払う金額を知りたいのに教えてくれないから」ではないでしょうか?
どうして、「お気持ちで」という、回答になるのかは徐々に見ていきたいと思いますが、まずは「お布施」がややこしい理由を箇条書きにして整理してみましょう。
▼お布施がややこしい理由
・お寺さんに聞いても「お気持ちで」と言われる。
・普段のお金のやりとりとは異なる。
・明確な答えが分からない。
・そもそも、お布施って何?
と、いうところでしょうか?
まず押さえておくべきポイントとしてお布施は普段の買い物のやりとりとは違うということがあげられます。
つまり、「モノやサービスとお金を交換するシステム」とは違うということです。
「お布施」が「サービスに対しての対価」としてお支払いするものであるならば金額を明示することができますし、世の中のほとんどはその仕組みで成り立っているので分かりやすいのですが、「お布施」はそういったものとは違います。
では、「お布施」とはいったいなんなのでしょうか?
お布施の概念とは?
お布施には「お布施=お金」という図式以外にも意味があることを押さえておきましょう。
言葉の意味としては次のようになります。
【布施】
梵語ダーナの漢訳。檀那・檀と音写する。
他に与えること、施しの意。
財物を施すことを財施、
法を説くことを法施、
無畏(おそれなき心)を施すことを無畏施といい、
総称して三施という。
六波羅密(六度)の一。『浄土真宗聖典 注釈版 第二版』(本願寺出版社)より
つまり、「お布施」とは、簡単にいうと「他に与えること、施すこと」という意味になります。
お寺さんへのお礼だと思われがちなお布施は、実はお互いにしあうものなんですね。
お寺や僧侶からのお布施は、お経を読むこと、法話をすること、そして聴聞の場のお寺を護持していくことも布施にあたるでしょう。これらを法施といいます。
ご門徒方や、おまいりの方にとっては、それらの法施に対して金銭などの財施をほどこすことをいいます。これを財施といいます。
そして、もうひとつ。相手に対して笑顔で接したり、優しい心を持ち、優しい言葉をかけることなどを無畏施といいます。
このように互いに施し合うのが本当のあり方なんです。
そして、これらの布施は、これだけしてもらったから、これだけのお返しというものではなく、互いに見返りを求めないのもポイントです。そのことから、対価ではないと言われるのです。
現実にはどうなってるの?
そうは言っても、このお布施は寺院の維持に使われたり、僧侶の給料となっていくのも事実です。
ですので、現実的には主に金銭でお布施をするというのがスタンダードです。(普通のお寺はけっして無理はいいませんし、農作物をお供えいただく方も多いですよ。)
「対価ではないものを収める」というのは、現代の感覚では、なかなか腹落ちしないと思いますが、1つの考え方として浄土真宗の立場から言うと、「お布施」はお賽銭と同じような仏さまへのお供えという風に考えたほうがスッキリするかもしれません。
注)浄土真宗では布施をして功徳を積むということは言わないので、布施は仏さまへのお供えという風にとらえたほうがいいでしょう。
結局、どれくらい包めばいいの?
なんとなく概念は分かったけれど、もっとも知りたいのは葬儀や法事の時に「どれくらい包めばいいのか」ということではないでしょうか?
お気持ちはとてもよく分かるのですが、明示は難しいので、代わりにぼくの例を参考にしていただければと思います。
ぼくは他のお寺さんにお参りしてお説教を聞きに行く時に「お布施(財施)」をさせていただいています。
その時はお寺の人間であってもお布施を持っていくんですね。
感覚としては「できる限り」ということを心がけています。昔は「ちょっと多過ぎて苦しいかなというくらいが、ちょうどいい」と言われていたそうです。
ウチも子ども4人になりましたので、お布施を出すときにキツイなぁと感じることもあるのですが、お経やお説教を聞くとまあいいかなという気持ちになります。(正直、対価っぽい考えをしちゃいますね…)
ですので、個人の経済状況によって「できる限り」というところが違ってきます。
それぞれで状況は違うでしょうから、金銭でお布施をする時には金額が違ってきて当たり前ですし、思いもそれぞれで違うことでしょう。
ここに来て、ようやく「お気持ちで」という言葉が生きてくるわけです。
そういう意味では、この時ばかりは定額でなくてよかったというところかもしれませんね。
※明示できなくてごめんなさい。
アドバイス:どうしても知りたければ…
ご近所の先輩に思い切って「どれくらいお布施をしましたか?」と、聞くのが一番です。
その上で自分のお布施はどれだけすればいいかなと、ご自身の気持ちを考えていただければと思います。
お布施の現実・地域差には要注意!
最近、終活など仏教関連の書籍が増えてきてそちらにもお布施の金額が載る状況も増えてきました。インターネットでも調べられるようですが、注意が必要です。
なぜなら、地域差がとても大きいからです。
都会ではお布施の金額が高くなる傾向にありますが、地方では全然違います。それなのに、全国平均というものを出されるものだから、ご門徒方よりも、こちらがびっくりしてしまいます。
説明してきましたように、「これでないといけないという決まった相場」というものはないのですが、町のみなさんは高すぎても、お寺さんに失礼でもいけないという心配な気持ちがもとになって、「お布施」情報をある程度共有されているようです。
ですので、どうしても知りたいという方は参考程度に近所の人たちに聞かれるのもいいのかもしれませんが、あくまでもそれでないといけないということはないので、無理はなされませんようにしていただければと思います。
お布施の封筒の書き方
お月忌まいりに行くと、「封筒の表の面に書く文字(表書き)をどう書けばいいのでしょうか?」というご質問をよくいただきます。
そこで、ここではその文字について書いてみたいと思います。
地域によってあるかもしれませんが、うちの地域の書き方としては次のものが多いです。
用途①:お月忌(法要)
御布施(おふせ)・お布施
※仏教としての決まりはないので、冠婚葬祭のマナーに準じていく形になります。また、福岡豊前周辺での実情に即して書いていきます。
「お布施」でも大丈夫です。
基本的にはすべてお布施でいいです。迷った時にはこれ。基本的にお寺に渡すものは全て「お布施」だからです。
上の写真は特に月参りの際に使われる表記と封筒(袋)です。
郵便番号のない無地の封筒の方がより丁寧かもしれませんが、ぼくはほとんど気にしていません。
封筒の色が違いますが、白でも茶色でもどちらでもOKです。あるものでいいと思いますよ。
用途②:お寺の法要
懇志(こんし)
御懇志という表記でも大丈夫です。
法座などの場合こちらを書かれる方が多いです。
「お布施」の一種なので、「お布施」でもいいのですが、お寺側としては「お布施」の表記とは分けてもらった方が助かります。
例えば、お月忌のおまいりの時に、月参りのお布施と一緒に、法座の分といって懇志を渡されることがありますが、両方の表書きがお布施だと、どっちがどっちかわからなくなってしまうからです。
お初穂 (おはつほ・御正忌のお斎料)
こちらの大きい封筒は「御初穂」といい、親鸞聖人のご命日の法要、御正忌報恩講で使われます。
御初穂とは、お供え物の穀物のことで、もともとお斎につく時にお斎米としてお供えし、お斎についていました。「初」の字があるので、本来は初めてとれたものを供えていたのだと考えられます。
お米が入れられるように大きな袋でお渡ししていますが、近年ではこちらも金銭で行うことが多くなっているようです。
賢明寺ではお寺からこちらの封筒をお渡しし、米一升か、1000円のどちらかでお斎につくことができるようにしています。
用途③:法事
御布施
ご家庭やお寺でおつとめする法事の際のお布施です。
書き方はお月忌のお布施と同じですが、改まった場になるので、封筒が違います。(不祝儀袋・ぶしゅうぎぶくろ、といいます。)
仏教としての厳密な決まりはないので、冠婚葬祭のマナーに準じていく形になります。
水引は白黒の結び切りを使用されるところが多いです。
そういえば、関西では白黄色も見ていましたが、こちら(福岡豊前)ではほとんどないですね。
また、白黒以外にも銀が使われているものもあるようですが、そちらは金額によって変わってくるようです。おそらく不祝儀袋自体の金額が違ってきますので、包む金額によって変えていけばいいと思います。
本屋・文具店や、コンビニ等でも手に入れることができます。
基本は三つのパーツからなります。外の袋、内袋、水引です。
※冠婚葬祭のマナーにのっとって、後ろは下→上と折っていますが、浄土真宗では教義上こだわりません。
ここからは法事の際にお布施と一緒に包むことが多いものを紹介します。
御更衣(おころもがえ)
更衣(ころもがえ)とは衣服を着かえることで、「更衣室」という言葉でおなじみですね。
法事の際に新しい衣を用意していたという慣習から、お供えするものです。
少なくなっているようですが、現在でも布の晒(さらし)を供えてくださるところもあるそうです。
御膳料(ごぜんりょう)
御斎料(おときりょう)などの表記もあります。
お寺さんがお経の後の食事(会食)につけないという時に渡すものです。お寺さんが一緒に食事をする場合は不要です。
地域によっては粗飯料ともいったりします。
ちなみに、上の写真は用途③のはじめに言っていた、銀色の水引です。
御車料(おくるまりょう)
車代(交通費)のことです。
用途④:親族の法事や知人のお宅に行く時
こちらはお寺に渡すお布施とは少し違うもので、「御佛前」(ごぶつぜん)といいます。
主に、法事を行っている家の方にお渡しするもので、お仏壇にお参りしたときに供えることが多いです。
文字の意味としては、仏さまへのお供えという意味合いになります。
用途:⑤ 葬儀(お葬式)の際
こちらは御香典(ごこうでん)と読みます。
仏さまのお供えに葬儀の参加者が自らお香を持って行ったという慣習からこのように書きます。
注意:浄土真宗では用いないもの
「御霊前」は浄土真宗では使いません。
お供えは亡くなった方の霊にするものではなく、仏さまにするものだからです。
(霊ということも言いません。)
購入の際についてくることも多いので間違わないようにしましょう。
用途⑥:親族をご縁として 永代経懇志
永代経とは永代読経の略であり、将来にわたってずっと、お寺でお経(お釈迦様の尊い教え)が読み伝えられることです。亡くなった家族をご縁にして「永代経懇志」を納められることは、そのお経が読み継がれる場所であるお寺の護持発展のために貢献することになります。
賢明寺では毎年3月にお彼岸の法要と一緒に永代経法要を執り行っています。
参考文献:仏事作法なんでも大辞典(現代真宗作法を考える会(アミ研)編)
番外編:便利な機能?
不祝儀袋ですが、最近では便利なものも出ていて、文字がまっすぐ書けるようにサポートしてくれるものもあります。
また、上の写真は中袋を入れたか確認できる穴付きのものです。
ちょっと試してみました。
中袋には、うっすらと花が描かれています。
中袋を入れると、こんな感じ。
入れないと一発で分かりま…せんでした。
アイディアはいいのですが、色が薄いので、よくわかりません。
結局開けて確認してしまいました。
用途⑥ お祝いの際
あまり知られていませんが、お寺ではお祝い事の儀式も行っています。
そんな時にはこちらの祝儀袋を使いましょう。名目が分からないという場合は「御祝」で構いません。
※こちらの写真では熨斗(のし)がついていますが、熨斗の由来は神様のお供えにあるので、これから用意するのであれば、熨斗はないものがいいです。あまり販売されていないかもしれませんが…。
初参式
赤ちゃんが初めてお寺で阿弥陀様とのご縁にあう儀式を「初参式」(しょさんしき)といいます。
↑その際に使われるのがこちらです。
祝儀袋に赤白の水引を使います。
この記事をご覧いただいた方から「上の写真の祝儀袋は初参式用ですが、水引が一度切りの結び切りになっていますよね。実際のところ初参式では結び切りか蝶結びかどちらの水引を使えばいいのでしょうか?」と質問をいただきました。
結論から申しますと、どちらでもかまいません。
その理由は浄土真宗ではまじないや迷信などは信じませんので、結び切りだから一度きりにになるということがないからです。もちろんその反対の蝶結びだから繰り返されるということもありません。
お寺はお付き合いもあるので、ある程度の世間的なマナーは意識しますが、今回のようなことについては、ほとんどのお寺さんは気にされないのではないでしょうか?(実際気にしてないので、上の写真の祝儀袋を使っていましたよね…)
気になる方は蝶結びを使われても大丈夫ですよ。
冠婚葬祭のマナーにのっとり、裏側は上→下と折って水引を付けています。
七五三
賢明寺では数年前から七五三もするようになりました。
初参式の名目を七五三に変えた形でOKです。
袱紗(ふくさ)で包んで持っていきましょう。
お布施や懇志を持っていくときには、袱紗(ふくさ)で包んでいきましょう。
袱紗の使い方
冠婚葬祭のマナーにのっとると、弔事の際とお祝いの際で包み方が少々違うようですが、そこまでこだわらなくても大丈夫だと思います。
参考程度にお祝いの際の包み方を説明します。
①左側にくるように置く。
ちなみにこの袱紗は台つきなのですが、かさばるので外しています。
②左をかぶせる
③上をかぶせる
④下をかぶせる
⑤右をかぶせる
⑥留める部分があるものは、留める。
完成!
※弔事の際は③と④の順序が反対になるようです。
お寺に来て渡すものは、この3つが多いのではと思います。
▼包みを入れるだけの、便利な袱紗(ふくさ)もあります。>>>
お布施や懇志を渡すタイミング
お布施や懇志を用意したはいいけれど、どのタイミングで渡せばいいかというのも悩みどころです。
ここも地域差が大きいので参考程度に福岡県豊前周辺の事例を見てください。
通夜・葬儀
タイミング:葬儀の翌日以降 お寺へお伺いして仏さまに御礼をする際
こちらが最も丁寧な方法で、現在のスタンダードです。
お寺へ行く都合がつけられないという方で当日に控室でお渡しいただくこともあります。
法事
タイミング:お宅もしくは、お寺での法事終了直後
おつとめと法話が終わり、一息ついた後に、お盆に乗せて渡しましょう。
法要
タイミング:法要が始まる前
こちらは御懇志になります。
たいていの場合、本堂入り口付近にお寺の役員さんたちがいる受付がありますので、そちらにお渡しください。
当日、出席できないという方は事前にお寺の方へ持ってこられたり、月参りの際に預かることもあります。
最後に
お布施や懇志の書き方や渡すタイミングには地域差があるので、どの場合でも一度お寺さんに直接確認するのがベストです。お寺さんとお付き合いがあるのであれば、そちらに確認ください。
また、お寺さんとお付き合いのない方は地域のお寺さんに質問するだけで伺ってもOKです。聞くことは恥ずかしいことではありませんし、お寺さんも聞いて欲しいと思っています。
ぜひ、今回の記事を参考に葬儀・法事・法要に臨んでみてくださいね。
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