12月31日、大晦日の物語。Aくんの場合

今日は大晦日!夜はもちろん、お寺にGOですよね!!

こんにちは、おてライターのHIDEさんです。お寺を楽しくする情報を発信しています。

さて、こちらの記事はご覧になられたでしょうか?

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上の記事の中に「Aくん(仮名)」が出てくるのですが、その部分を考えていると、妄想が膨らんだので、ちょっと書いてみました。

よろしければ、年末の空気感と共に、Aくんのストーリーをどうぞ。

目次

12月31日 PM11:30

大晦日の夜。

受験生ながら、この日は特別と自分に言い聞かせ、「行ってきます」と、向かったのは近所のお寺。

小さい頃は家族で来ていたけれど、ここ数年は仲のいい男友達と行くことが定番化していた。けれど、今年はお互い受験生ということで、志望校も違えば状況も違うわけで、なかなか誘いづらく、一人で行くことにした。

お寺に着くと、大きな鐘の音が聞こえる。すでに「除夜の鐘つき」が始まっているようだ。

ところで、知っているだろうか?お寺の鐘は煩悩を消すために突くっていうけれど、実は煩悩は突いても消えないらしい。初めて聞いた時はびっくりしたけれど、お寺の住職さんに話を聞いてなるほどと納得した。

それでも、鐘の音は人々を惹きつけるものがあるようで、すでに多くの人が行列を作っている。

ぼくも知ってはいても同じように惹かれるものがあるので、鐘を突かせてもらおうと、さっそく順番待ちの列に並んだ。

順番待ちは退屈だと思う人も多いけれど、少し見方を変えるだけで、楽しい時間になる。ぼくはこの鐘つきの順番待ちの時間をちょっとした人間ウォッチに当て密かに楽しんでいる。

鐘を突く人々を見ていると、様々な人がいることが分かる。

初めてで力の加減が分からない若い人、子どもを抱っこして一緒に突く親子、お酒の匂いをあたりに振りまき大きい声ではしゃぐおじさん。これでもかと激しく突いたかと思えば、直後に神妙な面持ちで合掌する人などなど…。この人間模様がなかなか面白いのだ。

やがて、ぼくの番になった。

その年の気分によって突きかたを変えるぼく。今年の突き方はというと、日ごろの受験ストレスをぶつけるように、思いっきり鐘を突いた。

鐘が大きく鳴り響く。次の番を待っている子どもがうるさそうに両手で耳を塞いだが、おかまいなしだ。

鐘の間近にいると、グワングワンという大きな音とビリビリとした振動が伝わってくる。テレビの「ゆく年くる年」では伝わってこないこの迫力。

この除夜の鐘を突くことがぼくの毎年の締めのルーティンで、大きな鐘の音に包まれながら厳粛な気分になっていると、「ああ、今年も終わりだな」という思いがじわじわとこみ上げてくる。

 

その後、本堂に上がって手を合わせ、知り合いの住職さんに挨拶と近況報告を済ませてから、神社へ歩いて向かうというのがぼくの定番の流れだ。

1月1日 AM0:10

この日ばかりはと集まってくる地元の人で賑わう神社へ行くと、そこら中から「あけましておめでとうございます」という挨拶が聞こえる。どうやら、新年を迎えたようだ。

境内を歩いていると同級生のB子にばったり出会った。

「あけましておめでとうAくん。」

「お、おう。あけましておめでとう」

唐突だけど、実はぼくはこのB子にひそかに思いを寄せている。

友達として過ごす中でいつのまにか好きになっていったという感じだ。

そんなB子と偶然とはいえ、他の友達を交えずに2人きりで会うのは今回が初めてだったし、学校以外の場所で同じクラスの女子と出会うこと自体もプライベートを見られているようで、どこか落ち着かない。

それに、今のB子の服装は学校指定の制服とは違い、黒のパンツにグレーのコート、少しかかとの高いブーツを合わせるというスタイルがよく似合っている。その普段の雰囲気とは違う大人びた感じはいっそうぼくを落ち着かなくしている要因なのかもしれない。

そんな彼女の姿を見てどきりとしていたぼくだけど、B子もクラスメイトと学校以外で会う気恥ずかしさに関しては同じ気持ちだったようで「こんなところで会うなんて、なんだかおかしな感じだね」とはにかんだ。

その笑顔を見たぼくは、彼女ともう少し話していたい気持ちだったけれど、B子に対する思いがあふれてきそうな気がして、「それじゃ」と、誤魔化すようにその場を後にしようとした。

ところが、反対に「一緒にお参りしない?」とB子の方から声をかけてきたのだ。

「あ、お互い受験生だし、一緒にお願いするというのも悪くないんじゃない?」とB子は言った。

その誘いに驚きながらも、「別にいいけど…」とそっけない態度をよそおいつつ、内心ガッツポーズをしたことは言うまでもない。

AM0:15

賽銭を投げ入れ、2人並んで神様に向かって柏手を打ち、お願いごとをする。

もちろん内容は合格祈願と…、薄目を開けて気づかれないように隣をチラリ。

そんな気配を察したのか、参拝を終えたあとすかさず

「ねぇ、何お願いしたの?」と聞いてくるB子。その質問に

「な…、そ、そんなの、教えられるわけないだろ」と詰まりながら返事をするぼく。

「そっちこそ、何お願いしたんだよ?」と、慌てて切り返す。

「私?私はね、合格祈願と…」

「合格祈願と?」

「合格祈願と……やっぱりヒミツ。」と、いたずらっ子のような笑顔をぼくに向ける。

こっちを見つめる瞳にまたどきりとするぼく。心なしかB子の顔がさきほどより赤くなっている気がしたのだけれど深夜の寒さのせいだろうか。

 

参拝を済ませ、初もうでの人でごったがえしている境内を2人で歩く。彼女が隣にいることを感じると、胸の鼓動が大きくなって、周りの喧騒が聞こえなくなるようだ。

もう少しこの時間を味わいたいと思ったのもつかの間、出口までくると「私、こっちだから。」と言って、ぼくの家とは反対方向を指した彼女。

「うん、それじゃまた学校で。」と、名残惜しさを感じつつぼくも別れの言葉をつげる。

去り際に「お互い受験勉強、頑張ろうね!」とこぶしを握るポーズをするB子。

その姿が可愛らしくて思わず笑顔になる。

 

だんだん小さくなっていくB子の姿を見ながら、「鐘を突いたんだけどなぁ…」と思わず独り言。

それは、ぼく自身がある思いを決意したことと、「今年も煩悩を消せなかった」とはっきり認識できてしまったから発せられた言葉だった。

つまり、「B子にぼくの気持ちを伝えたいという煩悩」が一つ増えたのだ。

けれど、この思いは除夜の鐘だのみではなく、自分自身で消せるようにがんばらなくっちゃなと、決意を新たにした元日だった。

 

 

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